美術館について
理事 ごあいさつ
この美術館は皆さまを私たち夫婦の家にお招きするという気持ちで、愛する軽井沢の地に用意した空間です。
人間には、自分の力ではどうにもならないような運命、あるいは、人間の性である人間同士の嫉妬や欲望に翻弄されて道に迷うことがあります。
私たち夫婦は、そんな悩みや苦しみを、自宅でフジタの猫や少女たちと語らいながら乗り越えてきました。
エコールド・パリの時代に名声を博したフジタもまた、愛する人との別れ、二度の戦争、一部の人々の嫉妬など数々の予期せぬ事態に翻弄されました。晩年フジタが描いた可憐な猫や少女たち、そして気高い聖母子像の数々は、それらの困難を乗り越えてフランスに終の棲家を構えたフジタが到達した桃源郷で描かれたものであり、それゆえに私たちに共感を与えてくれるのではないでしょうか。
この美術館は、そんな桃源郷に至るまでのフジタの歩みをゆっくりとお楽しみいただけるように工夫したつもりです。
これから皆様がいらっしゃる私たち夫婦の家が、皆さまにとって、それぞれに心の安寧を得て帰って頂ける場になれば幸いです。
- 軽井沢安東美術館 代表理事
- 安東 泰志
- 軽井沢安東美術館 理事
- 安東 恵
館長 ごあいさつ
軽井沢安東美術館は、日本のみならず世界でも初めての藤田嗣治の作品だけを展示する個人美術館です。美術館の創設者である安東泰志代表理事は、長年にわたって夫妻で藤田の作品を蒐集、自宅の壁にかけて慈しんできました。かわいい猫と少女をモティーフとした作品に惹かれて蒐集が始まったコレクションは、いまでは初期から晩年までの広範囲に及び、国内外の藤田研究者をも唸らせる充実した内容となっています。当館に常設展示されるこの安東コレクションは、個人としてはかつてない規模と質の高さを誇るといっても過言ではないでしょう。
現在、世界中で活発に取引されている藤田の作品ですが、安東氏にとって藤田の絵は、専門家の評価や投資の対象ではなく、手元に置いてずっと愛でていたいものでした。投資ファンド会社の経営者として、日々、厳しい金融の世界に身を投じているなかで、家族とともに藤田のかわいい猫や少女たちと向き合う時間は、この上ない癒しだったと言います。こうして、安東邸の壁面には一枚また一枚と、藤田の作品が掛けられていきました。
藤田の絵に囲まれて過ごし、癒しと至福を感じる中で、ふと「自分が亡くなった後、この作品たちはどうなるのだろう」と不安を感じることが重なり、「我が子のような作品たちを散逸させたくない」という想いは、やがて美術館建設の志を芽吹かせます。
用地の取得から始まり、実際に建設に着手してから完成までの道のりは長く、途中コロナ禍もあって決して容易なことではありませんでしたが、夫妻の想いを形にしようという周囲の協力によって、こうして無事に開館を迎えられることとなりました。
来館者の皆様には、当館のコンセプトでもある「安東夫妻の自宅」に招かれたような心地良さを感じながら、ゆっくりと藤田の作品を鑑賞していただけたら幸いです。そして、コレクションの出発点となったかわいい猫と少女たちを中心に、初期のものから晩年の宗教画までを網羅した、かつてない美術館を永く、いつまでも愛していただければと心から願っています。
- 軽井沢安東美術館 館長
- 水野 昌美