藤田嗣治作品と所蔵美術館紹介

Vol.4
京都国⽴近代美術館

《タピスリーの裸婦》藤田嗣治 油彩・キャンバス 1923年

《タピスリーの裸婦》藤田嗣治 油彩・キャンバス 1923年 京都国⽴近代美術館蔵
©Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2025 B0881

ベッドの上に腰を下ろし、こちらを見つめる裸婦と猫。裸婦の白い肌を際立たせるように、背景にはケシの花模様が華やかな「ジュイ布」が掛けられています。「ジュイ布」はフランス更紗とも呼ばれる手染めの布で、藤田はその緻密な描写を通して、伝統的な職人技への敬意を示しました。裸婦の隣には白いお腹が特徴的な、愛らしいキジトラの猫が描かれています。後ろ脚を伸ばしたリラックスした姿勢で横たわったこの猫は、藤田が当時飼っていた猫をモデルにしており、ほかの作品にもたびたび登場します。

1920年代、藤田はこうした裸婦と猫の作品を次々と発表していくなかで、フランス美術界における地位を確固たるものにしていきました。裸婦と猫のモチーフはやがて藤田の代名詞となり、その後も長く描き続けられていきます。1954年に制作された《天蓋の裸婦》も、そうした作品のひとつです。

軽井沢安東美術館

藤田嗣治《天蓋の裸婦》1954年

藤田嗣治 油彩・キャンバス 1928年 軽井沢安東美術館所蔵
©Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2025 B0881
しかし、その印象は1920年代に描かれた裸婦と猫の作品とは大きく異なります。かつて藤田が裸婦とともに描いた華やかなジュイ布はもはや確認できず、その代わりに豊かなドレーブの表現が美しい紅色のカーテンが目を引きます。裸婦は顔を背け、よく見ると床には眠る猫が控えめに描かれています。またフジタの作品と思われる絵画や十字架を飾った漆喰壁からは素朴さや質実さが感じられます。

裸婦と猫の作品に見られるこうした変化は、晩年の藤田がキリスト教へ関心を深めていったことと無関係ではないでしょう。1950年、フランスへ戻ってきた藤田は敬虔さや従順さを表すヴェールやスカーフで頭を覆った少女や娘を多く描く一方、《タピストリーの裸婦》に見られるような裸婦像の制作から遠ざかっていきました。それにともない、猫の居場所は裸婦のそばから少女や娘の腕の中へと移っていきます。《天蓋の裸婦》はこうした変化のなかで描かれた裸婦像で、藤田の画業の変遷を窺い知ることができる貴重な作品です。

京都国立近代美術館について

京都国立近代美術館
Photo by Kunihiro Shikata
京都国立近代美術館は、1963年に開館しました。平安神宮と同じ岡崎公園内に立地しています。陶芸、漆芸、染織を含む工芸全般、そして日本画、油彩画、版画、彫刻、写真などを幅広く所蔵し、多彩なジャンルの展覧会活動を行っています。京都を含む西日本の美術にも重点を置いています。

藤田嗣治の作品も所蔵する同館では、2006年には「生誕120年 藤田嗣治展」が、2018年には「没後50年 藤田嗣治展」が開催されるなど、藤田嗣治に関する大規模な回顧展が開催されました。

京都国立近代美術館に所蔵されている藤田嗣治の作品についてはこちら

京都国立近代美術館
〒606-8344 京都府京都市左京区岡崎円勝寺町26−1
https://www.momak.go.jp/