藤田嗣治作品と所蔵美術館紹介
東京国立近代美術館
藤田嗣治《五人の裸婦》 1923年
1923年のサロン・ドートンヌで発表した本作品は、藤田が初めて裸婦の群像表現を試み描いた大作です。また1914年以降、藤田と親交のあったパブロ・ピカソが1907年に描いた《アヴィニョンの娘たち》(油彩・キャンバス ニューヨーク近代美術館蔵)の構図とよく似ていることから、ピカソの影響も感じられる作品でもあります。横にほぼ一列に並んだ五人の裸婦は中央に立つ「視覚」を中心に、向かって左から触覚、聴覚、味覚、嗅覚の「五感」を表しているともいわれており、背景のベッドの天蓋と裸婦の足元に敷かれた「ジュイ布」風の細密な描写が、彼女たちの「乳白色の肌」をいっそう引き立てています。
《五人の裸婦》が描かれた2年前の1921年、藤田は初めて裸婦を発表し、その作品は「素晴らしき乳白色の下地」と絶賛されました。キャンバスそのものが人肌の柔らかさや滑らかさを表すことを目指した藤田は、白く光沢感のあるリアルな肌質を作り出すことに成功したのです。以後、藤田はこの技法を用いて主にベッドの上の裸婦を描いていきますが、1923年、立像かつ群像表現の《五人の裸婦》を完成させます。同じような表現で描かれた裸婦として、《舞踏会の前》(1925年 油彩・キャンバス 大原美術館)があります。
軽井沢安東美術館
藤田嗣治《腕を上げた裸婦》1924年
- 1924年に制作された当館が所蔵する《腕を上げた裸婦》は《五人の裸婦》のうち、左から二番目の女性と同じ構図で描かれた作品です。右腕を後頭部に回したポーズはベッドの上の裸婦でもしばしば見られ、当時、藤田が好んで描いた構図と思われます。また背景にも《五人の裸婦》と同じ白い布が描かれ、《五人の裸婦》の一部を切り取ったかのようです。画中の裸婦は視線をこちらに向け、口元に笑みを浮かべています。滑らかな白い肌と黒く細い輪郭線によって、後ろ手で左耳に触れる裸婦のたおやかな仕草や繊細な指先が表現されています。モティーフの周りに見られる縁取りは、藤田が描く油彩画・版画を問わずにみられる独特の表現方法です。
東京国立近代美術館について
-
東京国立近代美術館は、東京都千代田区北の丸公園内にある、日本で最初の国立美術館です。19世紀末から現代までの近現代美術作品(絵画・彫刻・水彩画・素描・版画・写真など)を随時コレクションし、収蔵品は13,000点超におよびます。藤田嗣治の作品は、26点所蔵しており、特に、アメリカ合衆国から無期限貸与された日中・太平洋戦争期の戦争記録画153点の中には、《アッツ島玉砕》(1943年)、《哈爾哈河畔之戦闘》(1941年)など、藤田嗣治の作品が多く含まれる。
東京国立近代美術館に収蔵されている藤田嗣治の作品についてはこちら
東京国立近代美術館
〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1
https://www.momat.go.jp