藤田嗣治作品と所蔵美術館紹介

Vol.1
ポーラ美術館

藤田嗣治《ラ・フォンテーヌ頌》 1949年

藤田嗣治《ラ・フォンテーヌ頌》 1949年 油彩・キャンバス ポーラ美術館
©Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2024 B0751

擬人化されたキツネの家族が食卓を囲んでいる場面。子どもたちが喧嘩をしたり、床で行儀悪く食事をしているため、キツネの夫婦はなかなか食べはじめることができません。舞台となっている室内には、フジタが理想の家として1948年に製作したマケット(建築模型)にみられる厨房や階段、暖炉などがあり、壁にはカラスとキツネを描いた絵が架けられています。この絵は、17世紀の作家ジャン・ド・ラ・フォンテーヌによる『寓話』全12巻のうちの「カラスとキツネ」の一場面を描いたものです。チーズを食べようとしていたカラスが、キツネに美声の持ち主だとおだてられ、声を発しようとした瞬間にチーズを落とし、それを奪われてしまうという話です。

本作品《ラ・フォンテーヌ頌》は、1949年3月、日本を離れてニューヨークに渡った藤田がパリに入るまでの約10カ月間という滞在中に制作したものです。第二次世界大戦中、戦争画を制作したことで非難され、深く傷ついた藤田は、二度と故国日本へ戻らない覚悟で羽田から飛び立ちました。そして解放感に満ちたニューヨークで、藤田は再び意欲的に制作活動に取り組んだのです。
1949年のニューヨークで藤田が制作したのはおもに、女性の肖像画と《ラ・フォンテーヌ頌》のような『寓話』を連想させる、動物を擬人化した作品でした。とくに猫の擬人化は藤田が得意とするところで、当館が所蔵する《猫の教室》はその代表作です。《ラ・フォンテーヌ頌》と同じく、1949年のニューヨークで制作された《猫の教室》もまた躍動感と豊かな色合いに満ちており、制作活動への愛と意欲を再び取り戻した藤田の姿を想像できるでしょう。

軽井沢安東美術館

藤田嗣治《猫の教室》 1949年

藤田嗣治《猫の教室》 1949年 油彩・キャンバス 軽井沢安東美術館蔵
©Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2024 B0744

この作品の中の猫たちは、人間のように学校の教室で勉強をしています。質問をする教師、真面目に答えている子、後ろを向いている子、喧嘩をする子たち、床に寝そべる子までいます。第二次世界大戦後のニューヨークで描かれた、学校でのありふれた、楽しい日常の一コマは、平和が回復した時代への喜びを伝えているかのようです。面相筆を使って描かれた細かいひげや猫の毛並みのディテール、ユーモア溢れる猫たちの表情など、藤田が得意とする猫の表現が、あますところなく描かれています。猫の作品という枠組みを超えて擬人化された動物シリーズのひとつにあたる《猫の教室》は、《ラ・フォンテーヌ頌》同様、ニューヨークの藤田を代表する貴重な作品といえるでしょう。

ポーラ美術館について

ポーラ美術館
2002年、ポーラ美術館は神奈川県箱根町に誕生しました。開館以来、「箱根の自然と美術の共生」というコンセプトを掲げつづけています。箱根の自然と景観に配慮した建物は、高さを地上8mに抑え、建物の多くを地下に置き、森にとけこむようです。約10,000点のコレクションは、ポーラ創業家2代目の故・鈴木常司が40数年にかけて収集したものが中心で、西洋絵画、日本の洋画、日本画、版画、東洋陶磁、ガラス工芸、古今東西の化粧道具から現代アートまで、多岐にわたります。なお、ポーラ美術館コレクションの柱の一つである藤田嗣治の作品は、画業の初期から晩年のものまで約220点を数えます。
優れた作品、豊かな自然、そして光に満ちた建築空間…。「共生」という理念が、美術館のすべてに息づいています。

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ポーラ美術館
〒250-0631 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
https:/www.polamuseum.or.jp/